退塾という選択…夏期講習中に起きた悲しい出来事
夏期講習も真っ盛りのある日、悲しい出来事がありました。
私はこれまで、担当した生徒の多くを途中で辞めさせるようなことはほとんどありません。
家庭の事情など、やむを得ない理由がある場合を除いて、基本的には一人一人をしっかり支えていく方針でやってきました。
しかし今回、小学5年生の一番下のクラスから、とうとう退塾者が出てしまったのです。
しかもその子は、クラスの中でも最も成績が厳しい子でした。
そもそも入塾テストの結果が思わしくなかったため、本来であれば入塾を見送る判断もあり得ました。
それでも私は、「とにかく半年間だけお預かりして様子を見させてください」とお願いして受け入れた子でした。
学習の厳しさと、本人の素直な努力

その生徒は、どの教科でも授業についていくのが非常に困難でした。
特に算数は厳しく、四則演算もままならず、小学3年生レベルの基礎力でした。
当然、集団授業の内容はチンプンカンプン。。
それでも毎日のように授業後に残って、補習を受けて頑張っていました。
性格はとても素直で、人懐っこく、学校では明るく元気な人気者。
運動も得意で、クラスでも中心的な存在だったと聞いています。
しかし、集団指導を行う進学塾のカリキュラムに適応するには、どうしても限界がありました。
本人も苦しそうで、補習の効果にも限界を感じざるを得ませんでした。
ある日、保護者の方からお電話がありました。
家族で話し合いを重ねた結果、「このまま続けていくのは難しい」という結論に至ったとのことでした。
保護者の言葉が示す中学受験の本当の価値
お詫びの気持ちを伝えた私に、保護者の方は思いがけない言葉を返してくれました。
「この半年間は、先生に本当によく診ていただいて、とてもよい経験をさせていただきました。
受験勉強に取り組むということがどういうことなのか、本人は身にしみてよく分かりました。本当に感謝しています。」
その言葉に、私は言葉を失いました。
本当に心からの感謝を感じ、逆にこちらが頭を下げる気持ちになりました。
私は、今後の学習の取り組み方や方向性についてアドバイスをお伝えし、深々とお詫びをして電話を終えました。
中学受験に向いている子・向かない子の特徴とは?
今回の出来事を振り返る中で、「中学受験に向いているタイプ・向いていないタイプ」があることを改めて実感しました。
もちろん一概に決めつけることはできませんが、ある程度の傾向はあります。
以下の表に、代表的な特徴をまとめました。
中学受験に向いているタイプ | 中学受験にあまり向かないタイプ |
---|---|
学習習慣が定着しており、毎日コツコツ勉強できる | 自主的な学習習慣がなく、集中力が続かない |
基礎学力(特に算数・国語)がしっかりしている | 四則演算や読解力など、基礎がまだ不安定 |
競争や目標意識に対して前向きに取り組める | テストや順位によるプレッシャーに極端に弱い |
忍耐力があり、粘り強く物事に取り組める | 苦手なことに取り組むのが嫌い・投げ出しやすい |
親子で受験への目的意識が共有されている | 保護者任せで、本人が受験への意欲を持っていない |
あくまで目安であり、時間をかけて変わっていく子も多くいます。
大切なのは、今の状態を冷静に見極めて、無理のない環境を整えてあげることです。
点数の裏にある成長を見逃さずにいたい
年々厳しさを増す中学受験。
近年、問題の難易度はやや落ち着いてきたとはいえ、受験人口は増加の一途をたどっています。
それに対し、受け入れる学校の数は比例して増えているわけではありません。
確かに中学受験が人生のすべてではありません。
高校受験や大学受験で、立派に志望校に合格し、成功していく子どもたちも多くいます。
しかし、塾講師として私は、この中学受験に挑む過程の中でこそ、子どもたちに掴んでほしいものがあると考えています。
点数で合否が決まる世界ではありますが、点数だけでは測れない努力や成長も確かに存在します。
そうしたものを子どもたちに経験させるために、私たち講師は教壇に立ち続けているのです。

まとめ
- 成績が振るわない生徒でも、半年間しっかり支援しようという姿勢が大切
- 中学受験はすべての子どもに向いているわけではなく、個別の適性を見極めることが重要
- 保護者の言葉から、受験の経験そのものが貴重な学びになると再認識
- 点数以外にも、努力・姿勢・経験という「成長の証し」を見逃さずにいたい