受験に一喜一憂するのは当然。でも講師にも葛藤はある
受験の合否に一喜一憂する──。
これは中学受験を経験される親御さんであれば、当然の感情だと思います。
私たち、進学塾の講師もまったく同じ気持ちで、むしろ生徒たちを「わが子」のように思い、何人もの受験生を毎年送り出す立場として、感情の波は、保護者の皆さんに劣らないものかもしれません。
特に、複数の生徒が同じ志望校を目指している場合、その結果が分かれると、講師としての喜びや悲しみも、決して単純なものではなくなります。
仮にあなたの子どもが双子で、同時に受験をしたとしたら──。
もし、片方が第一志望に合格し、もう一方が届かなかったら、どう感じますか?
これは、まさに私自身が毎年直面する現実でもあります。
明大明治を目指した3人の女子生徒たち
私が担当していたのは、二番手クラス。
その中で明治大学付属明治中学校(以下、明大明治)を第一志望にした女子が3人いました。
ここでは仮に、A子さん、B子さん、C子さんと呼ばせてください。
明大明治は男女共学化して間もない人気校。
この年の2月2日、女子受験者256名に対し合格者はわずか48名。
実質倍率は5.3倍でした。
結果、3人とも不合格。
A子さんに至っては、2月1日の別の受験校でも合格は取れず、顔は完全に失望そのものでした。
翌日、2月3日の明大明治再受験は、さらに熾烈な戦いとなります。
受験者数は174名。合格者28名。
倍率はなんと6.2倍。
通常、このレベルになると成績だけでは読めません。
「絶対」はないのです。
それでもA子さんは、「これでダメなら夢を吹っ切る」と覚悟を決め、1月に合格していた埼玉の学校への進学も視野に入れたうえで、再チャレンジを決断。
私は、そんな3人を応援するべく、雪の中、明大明治へ足を運びました。
合格の喜びの中にある“苦さ”──誰かが笑い、誰かが涙を流す
結果、A子さんが合格!
そして、彼女と仲の良かったB子さんも合格を果たしました。
私にとって、これは本当に嬉しい出来事。二番手クラスから、倍率6.2倍の明大明治に2名。
しかも男子を含めて5名も合格者を出せたことで、校長や他の先生方からも称賛を受けました。
しかし──私の心は素直に喜べませんでした。
C子さんだけが、不合格だったからです。
やはり、担当としてはC子さんとの受験勉強の時間、頑張り、努力、そのすべてが思い出され、悔しさがにじむのです。
以前、双子の姉妹を私塾経由で受験させた親御さんも同じようなことを語っていました。
一人は第一志望に合格。しかしもう一人は第4志望。
そのお母さんは、「とても複雑な心境です」と言いました。
まさに、それが講師の心境でもあるのです。

すべての生徒が第一志望に受かる年はない──それでも講師は走り続ける
これまで15年間、塾講師として中学受験に関わってきましたが、「担当した全員が第一志望に合格した!」などという年は、一度もありません。
塾のホームページや広告では、「御三家 〇〇名合格!」などと書かれ、若い講師たちは「俺の生徒が〇〇中に受かった」と胸を張って話します。
しかし、実際に長年生徒たちを見送ってきた講師の多くは、この時期、心の中に「複雑な思い」を抱えています。
合格した生徒とその保護者様の笑顔に救われる一方で、夢が届かなかった生徒とその家庭を思わずにいられません。
それでも、「少しでも多くの笑顔を見たい」。
そんな想いが、私たち講師を再び机に向かわせ、新しい受験生の一年を始める力になっています。
今回の記事のまとめ
- 受験の結果は家族だけでなく講師にも深い影響を与える
- 喜びと悲しみが交錯する中学受験、本当の「成功」は一人ひとりの成長過程にある
- 講師は毎年「複雑な心境」を抱えながらも、子どもたちの未来のために走り続けている
- 「すべての生徒が同じように成功するわけではない」ことを受け止める覚悟と支えが親にも必要

受験はゴールではありません。お子さまにとっても、ご家族にとっても、これから続く学びへの一つの通過点です。講師の気持ちも少し汲んでいただきながら、新しい春へ、前向きな一歩を一緒に踏み出していきましょう。