私がまだ講師になりたての若かりし頃のお話です。
直接担当していたクラスの生徒ではなかったのですが、小6の基礎クラスで受験に臨んでいた男の子(Y君)がいました。
Y君は礼儀正しく、スポーツマンタイプの元気な男の子でした。 直接担当した生徒ではないのに、ずっと意識が向いていたのは、お父さんが印象深かったからです。
Y君のお父さんは、よくY君を迎えに来ていました。 とても面倒見がよく、他の家庭の子も一緒に送ってあげたりしていました。
我々講師にも気さくに話しをし、よく差し入れなんかもしてくれ、受験直前期には栄養ドリンクやホッカイロをたくさん差し入れしてくれました。
職員の間でも評判のお父さんで、みんな「ああいうお父さんになりたいね」と言っていました。
お父さんの影響もあり、Y君は、担当からはもちろんの事、私のように担当以外の職員からも意識され、 周りの子達とも仲良く元気に塾に通って、一生懸命勉強していました。
しかし、気がかりなのは、Y君の成績です。
Y君は地頭が良い方ではありませんでした。
もともと5年生の時に入塾する際の入塾テストで合格点に届かず、一度は入塾を拒否された経歴もありました。
しかし、周りの支えもあり、お父さんも励まし続け、Y君はとにかく一生懸命勉強したのです。
そして、受験に突入。
お父さんも、仕事を休んでY君のサポートに徹しました。
結果は・・・
お試し受験を除いて、ことごとく、不合格だったのです・・
受験直前期は、私もY君を補習しましたし、周りも励ましたりしていたので、職員一同本当に残念がりました。
私が驚いたのは、受験後でした。
通常、入試で結果が悪かった場合、講師は責任を感じますし、悪かったご家庭に対応する時、苦慮します。
恨み言を言われる事もありますし、嫌味を言われることもあります。 (しかも、なぜか一生懸命補習した子のお母さんほど言ってくるんですよね・・・(T_T)) 二度と連絡をしてこない家庭もありますし・・
しかし、その年は小6のお母さん達有志が集まって、受験が終わった子供達と共に、担当講師に感謝会を開いてくれるという話がありました。 全体的に結果が良かった年でもありません。恒例行事でもありません。
他の担当と共に、その感謝会に参加してみると、その場を取り仕切っているのは、何とY君のお父さんだったのです。驚きました。
私達担当はお酒を飲み交わしながら、Y君のお父さんと色んな話をしました。
決して担当を批判することなどなく、感謝の言葉を述べてくださり、講師としては複雑な気持ちになりました。
中学受験をY君の成長の良い機会と捉えて下さり、さらには高校受験に向け、系列塾の中学部に通わせるので、これからもよろしくお願いしますというのです。
こちらが頭が下がる思いでした。
でも、「親として、どこか一箇所でも受からせてあげたかった」とストレートな気持ちも言ってくれました。
そんなお父さんの姿勢や感謝会に、講師達はみんな感銘を受けたわけです。
Y君はめげることなく、3年後の高校受験に向けて勉強を続けました。
当時の担当は、その後もY君の成長を意識する事となったのです。
そして、3年後・・・
地頭があまり良くなくて、入塾テストで不合格、そして中学受験で全滅だったY君は、高校受験で難関大学附属校に、見事 合格したのです。
その一報を聞いた時、私は率直に、Y君の成長の陰には、あのしっかりしたお父さんの支えが大きかったんだろうなと思いました。
その思いは、Y君の周りの講師の頑張りも巻き込んだんだろうと思います。
激務の塾講師を続けていく上で、そんな経験が力になっていたりします。
そして今でも、「Y君のお父さんみたいな父親になりたいな・・」と思っています。